2018/11/05

門真市訴訟 意見書内容


意 見 書


平成29年10月
神宮寺 ぴこ

PTAの組織および運営に対する各種問題(以下PTA問題)は平成19年の書籍「PTA再活用論」(注1)により広く世間の認知するところとなった。
私は仕事柄、平成19年の個人情報保護法施行時の企業での対応やその後の実際の運用等に関わってきた経験を活かし、自身のPTA問題へ対応・改善した経験も含めた電子書籍「ただいま個人情報漏洩中! :学校での個人情報漏洩とPTA」(注2)を出版した。
その後は、個人情報保護問題と同時にPTA問題の構造と対策についての啓蒙を行っている。また日ごろより主にインターネット上で各地のPTAの動きや保護者の声および実態を調査・収集・意見交換を行っている。

平成28年2月に、平成26年に熊本市立帯山西小学校の保護者がPTAに対して行った裁判(いわゆる熊本PTA訴訟)が福岡高裁にて和解した。(注3)
同年5月には民間議員の菊池桃子氏が、1億総活躍国民会議の場で「PTAの加入を任意にすべき」と発言し話題となり、本年1月には「#PTAやめたの私だ」というキーワードで発信されたブログ(注4)から、まずネットメディアが動き、テレビ・新聞にまで至り、PTA問題は多くの保護者や学校関係者から認知されるようになった。現在も議論やPTA改革への動きが巻き起こっているところである。
また、平成29年5月に施行された改正個人情報保護法により、PTAにも同法が適用されるようになり、さらにPTA問題への対応の機運が高まっている。

このような経緯と問題の認知により、本裁判は全国的に非常に注目を集めている。

さて、PTA問題は大きく5つに分類することができる。これらは本裁判にあたっても重要なポイントである。4、5はこれまであまり表面化されたことはないが、PTA問題の解決のためには必要不可欠であり、本裁判での争点の中心もそこであるといえる。

        1. 強制加入/自動加入問題
        2. PTA役員就任強要および会員への活動強要問題
        3. 個人情報保護問題
        4. 不正会費徴収、不正会計問題
        5. 学校教職員の職務専念義務およびPTA事務受託問題

1については、熊本PTA訴訟の和解により、裁判の前提事実としてPTAが「入退会自由の任意加入団体である」ことが確認された。
しかしながら、1年半以上経った今でも保護者やPTA、学校関係者には周知されていない。日本PTA全国協議会および各地のPTA連合会/協議会も各学校のPTAや保護者への周知に消極的である。ほとんどのPTAは相変わらず学校と密に連携して、保護者の錯誤を利用した強制加入/自動加入を行っている。

2については、現在もPTA問題として頻繁に発生している。特にこれによる人権侵害は深刻で、日常的な大人のいじめやプライバシーの侵害があり、また、会員ではない児童・生徒へのいじめへと波及してしまっていることも少なくない。
なかには改善を行っているPTAも多数報告されてはいるが、引き続き問題への対応が必要である。

3については、拙著にて「狛江市立学校における個人情報の外部提供について」(注5)などの事例紹介とともに、各自治体の個人情報保護条例および地方公務員の守秘義務が学校および教職員に適用されることを摘示した。学校の個人情報の目的外利用(PTA業務への利用)、学校から第三者であるPTAへの個人情報の無断提供は日常的に行われている。
またPTAの改正個人情報保護法への対応は、本年度のPTA活動を行ううえでの対応必須事項として各学校のPTAが、個人情報保護方針の作成や規約改正を行っているところである。これに合わせ、入会の承諾を書面でとるようになったPTAもあるが、多くのPTAは入会届のような明示的な方法による入会意思確認を行わないままである。個人情報も本人の同意なく学校より提供を受けている。

4については、PTA会費の徴収を、契約書等による明示的な委託・委任契約のないまま学校が業務として行っているという実態がある。
校納金の一部として、学校私費に紛れ込ませる形で別団体であるPTAの会費を計上し、一括引き落とし(いわゆる抱き合わせ徴収)を行っているのである。学校が一括で銀行から引き落とす金額に含まれているため、保護者はPTA会費を学校に支払う費用と錯誤してしまっている。
これは、学校への入学手続きの一連に流れにPTAのことが埋め込まれているため、保護者はPTAが学校組織の一部と誤認させられていることが大きい。入学手続きに必要な提出書類にPTAのことも紛れ込ませることで、保護者はすべて了承し情報提供をしなければ入学できないと思ってしまい、なんら疑うことなく引き落としの了承および銀行口座、個人情報等の情報提供をしてしまうのである。

次に、PTA会計および会計監査は保護者であるPTA会員と、教頭など学校側が一緒に当たるのが通例である。保護者には会計や法令の知識はないことが多いため、教頭など学校に誘導されるがままの処理や監査を行っている。保護者には、金額の多寡や領収書の有無のチェックは行えても、その領収書が有効なものであるかや支出先が適切であるか、また使途が適法・適切なものであるかなどの判断を行うことが事実上できない。
学校へのPTA会費からの寄付は、地方財政法の割り当て的寄付にあたり学校は受け取ることができない。もし学校が寄付を受け付ける場合には寄付採納の手続きが必要であるが、これを学校が行っていないケースが非常に多い。また寄付物品の指定を学校が行うことはできない(真に自発的な寄付ではないため)。
しかしながら、学校が物品や備品の購入または指定を行い、PTA会費から支払い、また領収書をPTA宛にすることで、PTAが自らその物品を寄付したと見せかけるのが常道となっている。
これは学校とPTAが、違法行為およびその幇助を行っているとみなすべきである。学校主導での会計や監査が行われれば、これを会計報告に盛り込むことは非常に困難であり、PTA会員は会計報告に疑念を抱くことは不可能である。PTA総会の会計報告ではこれらの不正を見抜くことができないまま承認されてしまい、総会で承認されたという事実を作り、疑問や会計資料の閲覧を認めないという実に巧妙な仕組みである。
これではPTA会費は学校の簿外会計(いわゆる裏金)といっても差し支えない。

5については、4の学校側の処理についての問題である。4で述べたとおりPTA会費徴収事務は学校側の業務として行われている。また必要な契約書は存在しない。行政は文書主義であるため契約書がない出納業務の受託はありえないことである。
特定の任意団体の事務を、地方公共団体の一部である学校が、契約書もなく何の条件もなく無償で行うことは、全体の奉仕者としての公務員が行うべき仕事ではない。
にもかかわらず、学校はPTA会費徴収等のPTA事務を行っている。これは公務員の職務専念義務を逸脱する行為といえる。
さらに、教育委員会を含めた学校関係者は、学校がPTA会費の徴収などの事務を行うのが当然のように考えている。たとえば私費会計の校務支援システムにはPTA会費の管理機能があたりまえのように付いている。また多くの教育委員会の学校会計の外部監査報告書においても、学校私費会計の中でPTA会費を取り扱うことやその業務を行うことになんの躊躇もないことが伺える。
そもそも別団体の会費を、学校の私費として取り扱うこと自体が問題である。

ここで、PTAの問題はなぜ起きているのかを考える。2の発生については1の強制加入の問題が重要である。PTAが義務であると保護者が錯誤したため、役員や活動をしない人を「ずるい」と思うからである。3は1の強制加入を強力に後押しする。
4、5は、学校の公費不足による費用をPTA会費でまかなう、という長年の適法でない習慣によるものである。学校経営をする校長および教頭は、PTA会費を学校私費として取り扱うことで、不足する費用の補填をしているのである。
然るに、学校は1、3のPTAの強制加入を推進し全員加入状態にすることで、4、5の学校の裏金の確保および隠蔽に努めているわけである。2のような問題が起きているにもかかわらず、会員が減って会費が減ってしまうような任意加入の周知など行うわけがないのである。PTA問題が解決しない本質はここである。

また、その行為を隠れ蓑にPTA役員による不正な支出なども同時に隠蔽される。
4、5の問題については書籍「公立高校とPTA」(注5)が詳しい。
PTAが会計の帳簿や各種資料を頑なに開示しないのは、この学校とPTAの不正会計を隠蔽するためである。会計に不正がなければ堂々と会員に開示できるはずである。また事務に不正がなければ堂々と開示できるはずである。
開示によって、学校での私費処理とPTA会計の資料の辻褄があっているのかを確認することもこの不正会計の存在の有無の確認に重要である。
仮に開示できない理由が開示のための手間であったり、PTA総会で承認されたからというのであれば、このような不正会計の問題の前にはそのような瑣末なことが開示を拒否する理由にはならないことは明らかである。

本裁判が全国のPTA問題に対して極めて重要であるのは、本裁判での数々の原告の主張が認められることが、学校とPTAによる不適切会計の隠蔽を、明るみに出すためにせよ、その潔白を確認するためにせよ、必要不可欠ということである。
もし、本裁判で原告の主張が受け入れられなかった場合には、全国の学校とPTAで行われている不正会計を発見、是正することは不可能になってしまう。

社会問題としてのPTA問題を解きほぐし、保護者とPTAと学校のお互いの信頼を培うために、PTA会計および学校会計の透明化をはかり、猜疑の余地をなくすためにも、本裁判での原告の要求を認めるべきであると強く申し上げる。

以上

(注1)川端裕人『PTA再活用論 –悩ましき現実を超えて』(中公新書ラクレ)
(注2)神宮寺 ぴこ『ただいま個人情報漏洩中!: 学校での個人情報漏洩とPTA』(Amazon Kindle)
https://www.amazon.co.jp/dp/B00XEIWVR0/
(注3)『PTA裁判判決の【主文】と【事実及び理由】2016年03月04日』
http://blog.pta-school-thinking.org/article/434574654.html
(注4)『小学校やばいPTAやばい 2017年1月27日』(はてな匿名ダイアリー)
http://anond.hatelabo.jp/20170127224355
(注5)近藤 邦明『公立高校とPTA - 娘が通った高校で保護者として考えたこと』(不知火書房)


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